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10日前の4月25日、私の地元にほど近い尼崎で、JR通勤電車の脱線事故が起きた。

その日、私はラオス・ルアンナムターのネットカフェでニュースを見ていて、阪神タイガースの快進撃に喜びながら、まだ小さく報道されていたその記事を見つけた。

その時はまだ死者が数人と出ていて「どんな脱線したんや?」と思っていただけなのだが、その後ニュースを見るたびに死者は鰻上りになり、ついに百人を超えてしまった。日本の鉄道史上でも5番目くらいの大惨事だという。

しかもその脱線原因はただのトラブルや人為的ミスではなく「1分30秒の遅れと、度重なる運転指令からの遅れ回復命令に焦った運転士が、スピードオーバーしたまま列車を急カーブに突っ込ませたから」だというからやりきれない。日本を走っている鉄道の時刻の正確さは世界に誇れるものだと思うが、定時運行を守るあまり安全運行をないがしろにしてもらっては本末転倒だ。

「数時間をロスする渋滞じゃあるまいし、たかが1分30秒遅れたぐらいでどれほどの社会的・経済的損失を生むというのだ?」とも感じるのだが、何よりもここ三ヶ月間アジアの時間の流れを体感してきた身には、こんな日本の現実が非常に悲しく思えてくる。もちろん運転士の運転ミスが直接の原因ではあるが、その背景にはたかが数分の遅れも許容できない乗客の心理、そして日本人の国民性までが浮き彫りになってくる。

これは散々言われているように、起こるべくして起こった事故で、その根っこは相当深いところにありそうだ。


ここタイの鉄道では、今回のような原因の事故は100%起こり得ないだろう。10分程度の遅れなど遅れのうちに入らず、停車位置もあって無いようなものでオーバーランもしようがない。乗客も遅れにいちいち反応せず、悠々たるものである。

今回、そのタイ国鉄の夜行列車に乗ることにした。


5月4日、チェンマイ駅。バンコク行きSpecialExpressの出発時刻は16時45分だ。

バンコク行き夜行は4本出ているが、今回乗るのは冷房付き2等寝台車と1等寝台車だけの客車寝台列車である。ほかには冷房なしの3等座席車から1等寝台車(当然、冷房付き)まで混成の列車、2等座席だけの高速ディーゼルカーなどもあって、まるで夜行バスや飛行機に主導権を奪われる前の日本のようだ。

日本の国鉄時代、夜行列車はバラエティに富んでいた。
寝台車だけのスマートなブルートレインから、普通自由席車からA寝台車まで5種類のグレードに食堂車を挟んだ夜行急行、古い客車を連ね、一昼夜をかけて終着駅に辿り着く夜行鈍行など、今思えば牧歌的な時代だった。タイの鉄道には、前に乗った昼行ディーゼル列車といい、今の日本で味わえなくなった雰囲気がある。

チェンマイ駅も、一昔前の地方の終着駅といったのんびりした雰囲気で、ホームでは夜行列車出発前独特の光景が繰り広げられていた。既に入線している列車の周りは、大きな荷物を抱えてこれから乗ろうとする人や、売店で飲み物などを買おうとする人たちが行き交っている。
見ていると、こちらもワクワクしてきた。ついに乗るぞー!

ステンレス車体を連ねた(日本製でなく、韓国のデウやヒュンダイ製だった)無骨だがスマートな列車をひとしきり撮ったり、売店でビールやお菓子を仕入れたりしているうちに発車時刻が来て、列車はホームをゆっくり滑り出した。
珍しく定刻(2~3分の遅れだが、十分「定刻」の範囲だ)の発車だった。

ちなみに今回乗ったのは冷房付き2等寝台車。二段ベッドがレール方向に配置されていて、昼間は上のベッドを跳ね上げ、下のベッドは向かい合わせ座席になるという、日本でも一部残っている形だ。幅も十分で寝心地も良さそう。ちなみにチェンマイからバンコクまで740バーツ(2千円くらい)。それが6両。あとは二段ベッド個室の1等寝台車、食堂車、荷物車という編成だ。


さて、落ち着いたことだし、車内探検に出かけよう。ザックはもちろん梯子にくくり付けて。


乗客は現地人とバックパッカーが半分ずつくらいで、満員御礼だ。2日前にチェンマイ駅の窓口で予約した時は残り3席で滑り込みセーフだったのだが、そんなに人気があるのも分かる気がする。バスより料金は高いが、やはり横になって移動できるのは疲れなくていい。タイの列車にしてはまあ清潔だし。

乗りたかった1等寝台車(満席で取れず)も覗いてみると、いくつかの部屋が廊下側のカーテンを開け放していて中が見える。広々とした二段ベッドに洗面台まであるぞ。内装は質素だが、必要十分だ。これで1250バーツ(3300円)。数日分の生活費が吹っ飛ぶが、日本でこんな個室寝台車に乗ったら、個室料金だけで6千円以上する。運賃と特急料金は別途でだ。それに比べたら安いもんだ。

ゴージャスではないが、車内に漂うゆったりした空気は長旅の夜行列車ならではだ。
それに合わせるように、列車ものんびりと草原の中を走る。バンコクまでは600kmくらいあるが、到着は翌朝6時25分。14時間近くかけるだけはある。日本の寝台特急なら9時間くらいで行ってしまうだろう。SpecialExpressを名乗ってはいるが、何ともゆったりしたものだ。


さて、食堂車では既に気の早い客が食事を始めていたが、なぜかこの車両だけ冷房がなく、開け放した窓からは熱風が吹き込んできている。ただでさえ厨房の熱気も流れてくるので、暑い。暑すぎる。だいたい、わざわざここで食わんでも、夕食時には席まで運んできてくれるではないか・・・。

そう。この列車は、夕食を席まで運んできてくれるサービスがあるのだ!

日本より上ではないか!日本の寝台列車など最近は食堂車すらほとんどなくなって、待ち時間のホームで立ち食い蕎麦をすすったり、ベッドに腰掛けて冷めた駅弁を掻き込んだりと、食事時には何となく侘びしさが漂うのだが(高い寝台料金払うてんのに!)、ここでは上げ膳据え膳ときている。しかもデリバリーの時間も指定できるとあっては、タイとは思えない芸の細かさに感心するばかりだ。もっとも、時間通りに持ってきてくれるかは疑問なのだが。

係員がメニューを持ってきてくれた。カレー中心のコースや、単品などレストランにも劣らない多彩さだ。さすがはタイ。もちろん英語表記もあり、困ることはない。
ただ値段はかなり高く、ディナーセット150バーツ、瓶ビールが100バーツと、カオサン相場の倍以上もするが、まあ比べること自体がナンセンスかもしれぬ。折角乗ったのだから、特急トワイライトエクスプレス(大阪~札幌)の1万円フルコースディナーとはいかんが、ちょっと豪勢にディナーを堪能してみるか。

結局、やはり指定時間より少しは遅れたが、ご飯、鶏肉と野菜の炒め物、グリーンカレー、スープ、パイナップルのデザートというディナーにありつくことができた。

係員が向かい合わせ席の間に組み立て式のテーブルをセットすると、すぐに料理は運ばれてきた。エコノミークラスの機内食のような、トレイに乗っかった料理を想像していたのだが、ちゃんとした皿や器に盛ってあってラップがかけられていた。お~、ビジネスクラス待遇や!味もなかなか。タイの料理は列車の中もハズレがないのか。

ただ、配膳に使うお盆をどこに収納するかと思いきや、ゴミ箱の横に突っ込んでいるのには「・・・」であった。まあ、タイで高度な衛生管理は期待せん方が良かろう。

夜8時前には、もうベッドメイキングが始まる。係員が、収納されている上段ベッドを引き出し、カーテンを引っかけてゆくが、シーツや布団を敷くのはセルフサービスで、これは日本と同じだ。シーツはビニール袋に入っていて、ちゃんとクリーニングされているのだと分かる。使い回しでないので安心した。

列車は揺れも少なく、ベッドの寝心地も悪くはない。熟睡できそうだ。ただ、やはりカーテン一枚しか仕切りがないので少し不安は残る。日本ですら夜行列車の盗難騒ぎは日常茶飯事なのだから。パソコンやカメラは身体にストラップを引っかけておいた方が良さそうだ・・・。


翌朝、目が覚めると、列車は既にバンコクの手前の駅まで来ていた。幸い、荷物もなくなってはいない。

バンコクに着いたのは午前6時15分。時刻表では6時25分着なのだから、10分も早く着いてしまったことになる。まあ、始発駅で早く出発されたら困るが、終着駅に早く着いたのなら客にとって不都合はない。ただ、他の列車には影響ないのだろうか・・・。

客が降り終わると、デッキからホームに向かって何やら白い大きな袋がポンポン投げられているではないか。よく見ると使い終わったシーツのようだ。しかしいくつかは線路の上や、事もあろうに列車のトイレの排水口の真下に落ちて汚れているではないか。なんぼクリーニングするとは言ってもねえ・・・。まあタイやから仕方ないか。インドなどもっとひどいのだろうから。ちなみに日本ではすぐさま車両基地に回送して清掃するのだが。


海外で夜行列車に乗るのはベトナムに次いで二回目だったが、日本とも比べてそれぞれの違いが面白かった。社会主義国らしく何もかも実用本位のベトナム、車内は質素だが「食」へのこだわりが感じられたタイ。

日本の夜行列車はここにきて、時間で売るか、豪華さで売るかの二極化が進んでいる。「トワイライトエクスプレス」や「カシオペア」といった豪華夜行列車、速達型の夜行列車は好評だそうだが、それ以外は縮小の一途をたどっているのだ。「さくら」「はやぶさ」といった伝統のブルートレインも、いつ廃止になってもおかしくない。寂しい限りだ。料金の高さもあるかもしれないが、日本人の旅も変わってきて、余裕が無くなってきたのかもしれない。タイの鉄道が日本の後を追わないように祈るばかりだ。

そう言えば、ラオスへ行く途中に寄ったタイ北部のノンカイ駅で、面白い光景を見た。

昼過ぎに行くと、夕方に出発する夜行列車がホームに留置されていたのだが、中を覗いてみると、これから夜行列車に乗るであろう乗務員が昼寝をしているではないか。また、デッキに腰掛けて新聞を広げていたり、短パン姿でホームをランニングしていたりもする。
きっとバンコクから夜行で往復する乗務スケジュールなのだろうが、それにしても牧歌的なタイの鉄道を象徴しているようなワンシーンだった。
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